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 (177) 民謡と共に永久に生き続ける
関の五本松

「関の五本松、一本切りゃ四本、後は切られぬ夫婦松。・・・」と歌う民謡で知られる、関の五本松は島根半島の東先端(現:松江市美保関町)にありました。江戸時代から500年近く存続した初代の五本松はすべて失われ、また江戸時代と異なり交通事情が激変した現在では、美保関町を訪ねる人も少なくなっていますが、実際訪ねてみると民謡とともに脈々と生き続ける関の五本松に感動します。

  

  (177-1) 往時の繁栄を語る美保神社

 関の五本松で有名な美保関は、島根半島の東先端部にある小さな港町で、交通事情がすっかり変わってしまった現在では訪れる人も少ない地ですが、ここには下写真のような美保神社という立派な神社があります。この神社は全国に3300社余りある恵比須様を御祭神とした神社の総本宮であり、この地が江戸時代には非常に栄えた地であったことを物語っています。
 
山陰地方第一の要港として栄えた美保関は、江戸時代になって一層繁栄し、北前船を中心として大小の船が往来して賑わいをみせました。江戸時代には美保関は山陰地方の表玄関であり、関の五本松節の民謡もそのような地域の繁栄をバックにして生まれたものです。

  

 (177-2) 有りし日の関の五本松の雄姿。

 江戸時代に1本切られて4本になったとはいえ関の五本松は江戸時代から昭和初期まで400年余にわたってその雄姿を見せていました。

 左上写真は大正時代(1910年頃)に撮影された関の五本松の遠景。美保関港に近い山の上に5本(後4本)の松大木が並んで立っていました。かつて日本海を航行する船頭や漁師は、山の上に立つ松の木を数えて、美保関の港を確認していたのです。

 昭和8年(1933年)に国の天然記念物に指定されました。左下写真は天然記念物に指定された頃の関の五本松の雄姿です。大きなものは幹周4.3m、樹高25mに達し、いずれも樹齢350年と推定されていました。

 関の五本松は松巨木としても第一級の名松でしたが、戦後になり昭和33年(1958年)の台風で1本が倒れ、昭和45年(1970年)には台風や突風で相次いで2本が倒れ、江戸時代からの関の五本松も残すところ1本になってしまいました。そして最後の一本は松くい虫被害により平成9年(1997年)に枯死してしまいました。

 

  (177-3) 五本松公園に残る松のモニュメント
かつて関の五本松が立っていた所は、現在では「五本松公園」となっています。港に近いところから急な山道を徒歩で20分くらい登ったところにその公園はありました。公園には大きな松の切り株のようなものが複数本立っており、近づいてよく見るとそれはプラスチックで作った五本松のモニュメントでした。幹の大きさ、形、立っている位置など、ありし日の五本松の姿そのままに偲ぶことができます。
 
初代の関の五本松の倒失に伴い、町民の熱意により昭和46年(1971年)に、初代の種子から育てた黒松4本が、二代目の関の五本松として公園内に植栽されました。しかしその後、平成2年(1990年)の台風で1本が失われ、同年の季節風でさらに1本が失われ、翌年には残る2本も松くい虫被害で枯死してしまいました。
2代目の関の五本松は驚くほど短命に終わってしまいましたが、現在では3代目の関の五本松が植えられており、公園内にスクスクと育っています。

  

 (177-4) 眼下に広がる三保湾と日本海

 五本松公園から周囲を見渡すと、左写真の様に五本松越しに眼下に三保湾が広がり、東の方角には茫洋と日本海が広がっています。

 関の五本松はこの山の上から500年余にわたり沖行く船を見守って来ました。

 かつて北前船の出船入船でにぎわっていたであろう海上には、今はその姿は見られませんが、江戸時代・明治・大正・昭和・平成・令和と移り変わってきた時の流れが幻の様に思われました。

  

  (177-5) 関の五本松の原木展示
 
この地の人々の関の五本松への思いは非常に強いのでしょう。美保関町のあちらこちらに関の五本松の原木(切り株のサンプル)が展示されています。私が見ただけでも下写真の様に3箇所にありました。
(a)下左写真:美保神社前にある観光案内所に展示された原木。
(b)下中写真:美保関港近くの展示室に見られる原木。
(c)下右写真:五本松公園にある展示小屋に見られる原木。
どれも樹齢500年の古木の風格と迫力を見せていました。”虎は死して皮を残す”と言われますが、”銘松は死して切り株を残す”と言えるでしょう。
 
江戸時代から続く初代関の五本松は全て失われてしまいましたが、多数の原木、モニュメントとして残り、二代目、三代目として復活し、民謡と共にいつまでも生き続けることでしょう。

 

   樹木写真の属性
 樹  種 クロマツ(黒松)[マツ科マツ属]
(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地 島根県松江市美保関町
 撮影年月  2023年3月
 投稿者  木村 樹太郎   
 投稿者住所  島根県邑智郡川本町
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